State of Fear / Michael Crichton

図書館の英語本コーナーでたまたま見つけて借りた本。映画『ジュラシック・パーク』や『ロスト・ワールド』は観たけれど、マイケル・クライトンの原作は読んだことがないなぁ、と思って読んでみたら、気候変化を題材にした小説だった。ちょっとへなちょこ気味の主人公が、環境テロリストとの争いに巻き込まれて、あれよあれよという間に南極からニューギニアまでひきずり回され、「いやそれフツーもう死んでるってば!」と突っ込みたくなるような壮絶な経験を何度もさせられボロボロになりつつもやっぱり主人公だから最後までちゃんと生き残るお話(ってこんなテキトーな説明でいいのだろうか?)。

主人公はもともと環境問題に人並み以上の関心を抱いている善良な市民だが、「地球温暖化は起こっていない」というデータをあれこれ見せられ、信念がゆらいでいく。まぁこの本を読んで「あぁ温暖化問題なんて嘘っぱちだったのね」と大いに納得するほど私は素直ではないし、作者もそんな単純な洗脳を望んではいないだろう。もっとも「国家が民衆を操作するためには恐怖感が必要で、冷戦後の“恐怖”の対象として、環境問題が捏造され利用されている」とかいう議論には、「そういう考え方もアリか!?」と思わさせられてしまった。

文中に実データを用いてエクセルで作成したグラフが出てくる小説というのもかなり珍しいだろうが、内容的には平均気温の経年変化傾向程度なので、理解はたやすい。データは表示方法(例えば気温データであれば空間・時間範囲など)を変えるとその示唆するところが違って見える、という指摘は妥当であろう。更に、改めて考え込んでしまったのだが、生データでは上がったり下がったりランダムに見える温度変化が、近似直線が引かれたとたんに傾向が見えてくる(ような気がする)。とは言え、大幅にはずれたデータが一つでもあれば回帰線はひきずられてしまうし、そもそも線を引かないとピンと来ない程度の変化な訳だ。もちろんそういった問題に対処するために、統計的有意性検定があるのだろうが、検定の基準となる有意水準5%とか10%とかという値も客観的とは言えず、「だいたいこれ位でOKってことにしておこうね」という単なる約束事のような気がしてしまう。

環境問題のように、政治経済社会に直接関わる問題について、一般市民が科学者に望むのは、「客観的データに基づく判断」であろうか。しかし、仮にデータが真に客観的であったとしても、それに基づく判断は主観的にならざるを得ない。「科学者は正しいデータを出してくれればそれで良い」という考え方もあるかもしれないが、得られたデータに対して何らかの考察なり意味付けを行いストーリーを提供しない事には、論文として成立せず研究費も回ってこないというケースが多かろうし、科学者のオリジナリティーは考察にこそあると信じる向きも多かろう。科学者が象牙の塔で真実の追究に勤しむ姿は美しいが、どんな研究であれ、どこかからお金が回ってこなくてはままならない。

・・・などといささか浮世離れした事をごちゃごちゃと考えさせられてしまった本ではありますが、のほほんと英語の本を読んでいるような暇があったら、ドイツ語の本に挑戦すべきなんですよね、ホントは(^^;;。
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by penguinophile | 2010-05-26 07:08 | 徒然 | Trackback | Comments(9)
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Commented by akberlin at 2010-05-26 12:19
マイケル・クライトンってERとかジュラシックパークの人でしたよね。環境問題で大統領にならずとも大いに名を馳せたゴアさんとかもいますしね、アメリカ人にかかるとなんでも宣伝材料かと・・・。
相方も環境問題とか地球にやさしくとかの行き過ぎに警鐘を鳴らすタイプ。そりゃアンタのバクテリアたちはどう考えても最後まで生き残るタイプだけど・・・。
Commented by M at 2010-05-26 19:32 x
マイケル・クライトンって私はERしか知りませんでしたが、ジュラシックパークもそうだったのですか。この人ホントに医者だったんですかね。(まあ医者としてはほとんど活動しなかった手塚治虫みたいな人か)
ご指摘のように温暖化問題って(政治や経済の)妙なバイアスのおかげで純粋に科学的な議論がどれだけできているかが外部の人間には甚だ判断しにくく、私にはそういうのが我慢できないです。環境研のHPなど見ていても肝心な部分の説明が省かれていたりして非常にストレスがたまります。CO2を削減しても温暖化が止まらなかったらどうするつもりなんだろう。
Commented by penguinophile at 2010-05-27 05:18
akberlinさま:
不都合な真実、見たいと思いつつ未見なんですよねー。バクテリアは確かにかなりしぶとそう・・・。
アメリカ人じゃなくても、先日のNRW州選挙キャンペーンでは、緑の党の宣伝にホッキョクグマ着ぐるみ君が出没していましたよ。「地球にやさしく=温暖化防止=ホッキョクグマ」という図式はちょっと安直過ぎないかぁ?と思いつつ、次男もシロクマ君スーツを着ていたので、シロクマ兄弟写真を撮ってみた私(笑)。ちなみに「地球にやさしく=温暖化防止=ペンギン」という図式の着ぐるみなら安直でも大歓迎(オイ)。
Commented by penguinophile at 2010-05-27 06:02
Mさま:
えー医者?とWikipediaを今やっと見て故人だと初めて気付いた私。疎すぎる。もっと関係ないけど身長206.6cmにびっくりしたり。
CO2を削減しても温暖化が止まらなかったら・・・ますます政治経済的大騒ぎ?(^^;
Commented by raquel_2006 at 2010-05-27 20:54
おもしろそうな本のご紹介ありがとうございました。なかなか自分で全ての本は読めないので、人の書評はいつも気にして読んでいます。ドイツ語の本を読める日がくるのはまだまだ遠いですが、英語ならなんとかわかりそうなので、話題の本を英語と日本語の両方で読んでみたいなと思っています。とはいえ映画を見るのに忙しくて最近は読書の時間が減っています・・・
Commented by penguinophile at 2010-05-31 17:12
raquel_2006さま:
この本は結構長くて、私の読んだペーパーバックで717ページありました。まぁどんどん読み進められるんですけどね。
私はむしろ映画の方がとんとご無沙汰です。映画館に行くのは難しいし(時間のみならずドイツ語の壁が!)、細切れ時間の活用にはDVDより本の方が適しているし。
Commented by 東風 at 2010-06-02 05:44 x
ERは彼の医者時代の体験が基で、確か、カーターの中に自分を投影していたはず。それぐらいリアルなドラマなんですよ、って公共ホウソウ局が熱心に言っていたような気がします。

そう、亡くなられたんですよね。日本で90年代にハヤカワや創元から翻訳がワーワーとでてきた作家が(当然ながら)年齢を重ねていて、私も「ああ、もうこの人の作品は読めないんだわ」と残念に思う人が出てます。
Commented by penguinophile at 2010-06-06 19:06
東風さま:
それでは医師免許も創作の役に立っていたんでしょうか。カーターさんって確か若い新米のお医者さんでしたよね。
好きな作者が亡くなってしまうと、残された作品を全部読んでしまうのがもったいなく感じられてしまいます。
Commented by M at 2010-06-07 00:07 x
ERでは救急医療の現場がすごくよく再現されてたように思えました。一刻を争う事態に迅速に的確に対応するプロフェッショナルの方たち。同時期にやってた日本の救急医療ドラマとは雲泥の差でした。こちらは救急とはとても思えないとろい現場で。。。
私好きな作家でも全作品を読んだと言える人はたぶんいないかな~。こないだサリンジャーが亡くなったときにPさまと似たようなことを言ってた人がいたような。でもあの人の後半生ではほとんど何も書いてなかったか。
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ドイツ田舎町での地味暮らしを徒然なるままに。


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